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「なっ!」
「昴流、暴走すんなよ?」
九十九ちゃんの言葉に反論しようとしたところで、刀子姉さんの言葉に機先を制された。
「刀子姉さん。『聞きしに勝る』って、ぼくのことなんて言ってたのさ……」
「あはは! そりゃお前、『愛され体質の可愛らしいヤツ』だって言ったんだよ」
刀子姉さんは隠そうともしない。
その手が慰めるようにぼくの頭を乱暴に撫で回して、ぼくの首がぐりぐり動く。
「それよりさ、意外となんでもないだろ。あたしらと変わんないって言うかよ」
「うん……まあ、確かに」
期待感の方が大きかったとはいえ、妖怪という未知の存在に対する怖れもあったのは事実だ。だけど、目の前の九十九ちゃんを見て怖いだとかそんなことは全く思わない。
そんな話をしていると、九十九ちゃんがなんだか不機嫌そうにしていた。
「刀子……いつも言っているだろう、あまり九十九を舐めるな。この九十九はなぁ――」
「あー。いいいい。長い話はいいから」
刀子姉さんが辟易したような苦笑いを浮かべて、九十九ちゃんの言葉を遮った。
九十九ちゃんの表情がさらに不機嫌そうに歪められるが、その表情はなんだか見ていてほっこりした気持ちになる。
「今日は昴流の顔見せだ。昴流、ばあちゃんやおふくろにバレる危険もあるし今日はこれで戻るぜ」
「も、もう帰るのか? 九十九は、九十九はまだ昴流と何も話してないんだぞ?」
不機嫌だった九十九ちゃんの声が甘えるようなものに変わる。
確かに九十九ちゃんの言うとおり全然話せてないし、このまま帰るのは九十九ちゃんが可哀想だ。
「刀子姉さん。もうちょっと居てあげた方が……」
「駄目だ昴流。梯子かけてるのがばあちゃんやおふくろに見つかったらやべえ。気持ちはわかるが、また今度チャンスを見て来るようにするから」
確かに一日目から問題を起こしたくはない。
でも……。
「……」
寂しげな瞳でぼくと刀子姉さんを交互に見る九十九ちゃんを見てると後ろ髪を引かれる。
刀子姉さんにはいったん戻って梯子を片付けて貰い、ぼくだけここに残ることも出来るには出来る。
でも夜の見回りのことを考えるとそれも難しいかもしれない。
ここは――
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