序章

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「あと少しで無事付きます……送信っと」  ピロリロリンと電子音。家族に向けた電子メールが無事送信されたのを確認すると、携帯電話を閉じてポケットに入れる。  そろそろ目的地も見えてきた頃じゃないだろうか。そう思い船室の小さな窓を覗き込もうと思って途中で止めた。どうせなら甲板に出よう。 「――わぁ」  甲板に出てみればもう首を振らなければ全影を捉えきれない程、島はすぐそこに見えていた。  強い海風を全身に受けながら手摺まで歩いていくと、よく晴れた空から降り注ぐ日差しが海面に反射して眩しい。 「久しぶりだなぁ」  箸島。男箸島と女箸島の二島から成る太平洋に浮かぶ大きな島だ。  ここに来るのは、えと……中学校に入った時以来だから約三年ぶりになるのだろうか? その時もそれ以前も来る時には家族と一緒だったから、一人で来るのは初めてだ。 「乗船ありがとうございました。当船は間もなく箸島に――」  甲板の端までうるさく聞こえる程の音量で船内放送が鳴り響く。船内放送があるぐらいの時間なら、そろそろ降りる仕度をしなければ。  しかし、正式な名前でも箸島と呼ぶのにはやっぱり違和感を感じるな、などと考えている自分に苦笑いを浮かべていたところで船内放送が切れ、携帯電話が鳴っていたことにようやく気付くことが出来た。 「もしもし」 「あ、昴流ちゃん。そろそろ付く頃?」 「あ、姉さん。うん、もうちょっとだよ」  誰からかかってきたのかも見ずに出た電話だったけれど、相手は姉さんだったようで胸を撫で下ろす。架空請求とかじゃなくてよかった。 「はじめての一人旅だし、兄さんめちゃめちゃ心配してたよ」  あたしは大丈夫だと思ってたけどね、と笑う姉さん。  一番ぼくを心配してくれるのが兄さんなら、一番ぼくを信頼してくれるのは姉さんだなと頬が弛む。 「ありがとう姉さん。兄さんにも、ありがとうって伝えといて」  そう言うと、「わかった」といい返事がすぐに返ってきた。 「それより滅多にない機会なんだからしっかり学んできなよ、あの――『妖怪島』でさ」  島の名前を思い出そうとしたのか、少し間を置いてから結局諦めたように姉さんは言った。より馴染みある通称の方を。  姉さんの言葉にわかったと答えながら思う。やっぱり、ぼくらにとってはこっちの名称の方がしっくりくる。  そろそろ時間だ、降りなければ。『妖怪島』に。
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