一日目/昼 2

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「九十九ちゃんごめんね。また来るから」  しゃがんで九十九ちゃんと目線を合わせ、九十九ちゃんの前に自分の小指を差し出す。 「……約束だぞ、絶対だぞ」 「うん。指切りで、約束」  九十九ちゃんの指がからめられる。感触があっても、空気みたいに温度が感じられない。  ぼくたちとはやっぱりちょっと違うんだとは思っても、目の前にある寂しそうな九十九ちゃんの顔を見ていると、不思議と怖いだなどとは思わなかった。  せーの、で声を合わせる。 「ゆーびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーますっ! ゆーびきった!」 「行くぞ昴流」 「うん。またね、九十九ちゃん」  刀子姉さんに急かされて立ち上がり、九十九ちゃんに手を振ってから出口でもある天窓へ歩いていく。それを確認すると、刀子姉さんは先に梯子を降りはじめる。 「昴流」  梯子に足をかけたところで九十九ちゃんに呼び止められ、天窓から九十九ちゃんの方を覗く。 「夜の見回り。気をつけるのだぞ」  妙に真剣な表情でこちらを向いて九十九ちゃんはそう言って、「それだけだ」と付け加えて手を振ってくれる。 「うん、ありがとう。またね」  ちょっと怖かったけど梯子から手を離して手を振り返すと、元通りに天窓の扉をしめて梯子を降り始める。 「げ」  登るのよりも大変だ、と考えながら一段一段踏み外したりしないよう梯子を降りていると、不吉な出来事の到来を容易に予測させる刀子姉さんの声。  どうしたのだろうとおそるおそる下を眺めると、剣子姉さんが肩をいからせてこちらに向かって歩いてきていた。どう見ても怒っている。 「あ、あはは……」  玄関で一度怒った剣子姉さんを目にしているだけに、背筋に寒いものが走った。 「刀子! 昴流! はよう降りてきい!」 「降りてやるからがなんな!」  梯子の下と上で姉妹が器用に声を潜めて怒鳴りあう。  うう……正直降りたくない。けれど、いけないことをしてしまったのはぼくなのだから怒られても仕方ない。  剣子姉さんが待っているので、姉妹が小声で怒鳴り合う中ぼくはペースを上げて梯子を降りていった。 「よし、さっさと撤収や」 「へっ?」  ぼくが降りると、姉妹は怒鳴り合うのも中断して、伸ばしていた梯子を折り畳んで撤収の準備をはじめた。
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