一日目/昼 2

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「えと……説教とかは?」  その、いろいろと覚悟をしていただけに拍子抜けだ。  既に手早く梯子を担ぎあげ、小走りに走り去ろうとしていた御影姉妹はぼくの言葉に反応して綺麗に二人揃って振り返る。  ぽかんとした表情の二人に見つけられること数秒間。 「ぎゃはは! 姉貴があんまりおっかねーから、昴流の奴勘違いしてやがるぜ」  刀子姉さんの笑い声によって静寂が破られた。  剣子姉さんは、人差し指をたてて大声で「しっ」と刀子姉さんを諌めてから口を開く。 「昴流。うちも九十九のことは知っとるんや。それとも知っとってなお、言い付け守って九十九を一人きりにしようとするような冷血女に見えるんか? だとしたらショックや……」 「ご、ごめんなさい剣子姉さん! 剣子姉さんのことそんな、酷い人だなんて思ったこともないよ!」  初めて見るような剣子姉さんの落ち込んだ表情に慌ててしまう。剣子姉さんが知ってるとは思わなかったのだ。  そんな落ち込む剣子姉さんの顔を見て、刀子姉さんはにやにやと笑っている。 「ひひ。じゃあ昴流、こんな長い梯子をあたし一人で運んだと思ってたのかよ」  そ、それはその…… 「えと、刀子姉さんならやりかねないかな……と思ってた、かな」  図星だった。  刀子姉さんが一人で梯子を担ぎあげる図は容易に想像出来る。何故かその図の刀子姉さんは黄色いヘルメットを被り白いタンクトップとニッカポッカ姿で、首からは白いタオルを下げていたけれど。 「なっ――!?」 「ぷっ」  刀子姉さんの顔がみるみるうちに赤く染まる。  今度は剣子姉さんが笑う番だった。 「刀子、ずいぶんたくましいイメージ持たれとるなぁ。羨ましいわ」 「う、うるせぇ! おっかないイメージ持たれるよりマシだろ!? とにかく、はやく梯子片付けるぞ!」  けたけた笑って刀子姉さんをからかう剣子姉さんと、強い言葉で言い返す刀子姉さん。  姦しく言い合いをしながら小走りに梯子を運んでいく二人は息ぴったりだった。  二人の背には長い影が伸びる。日没までは、あと少し。
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