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ついに夜がやってきた。
「やあ、昴流くんじゃないか。いらっしゃい」
早めの夕飯を頂いた後御影の家の立派な門の前に立って山際に沈みゆく夕陽を眺めていると、歩いてきた眼鏡をかけたスーツ姿の男性に声をかけられた。
御影家のお父さん。切彦おじさんだ。
「お久しぶりです。今日からよろしくお願いします」
「相変わらず昴流くんは礼儀正しいね。うちの娘たちにも見習ってもらいたいよ。
それより昴流くん、来たばっかりなのに見回りかい? えらいね」
「いえ、見回りを楽しみにしてやって来ましたから」
「そうかい。ぼくにはよくわからないけど、頑張っておくれよ」
そう言って切彦おじさんは柔らかに笑った。
おじさんはいわゆる婿養子という奴で、御影の血を引いていないから夜の見回りには参加しない。留守番役だ。
小さい頃に訪れた時には見回りの時間にも残るおじさんに遊んでもらっていた記憶がある。
「あら、おかえりなさい。あなた」
「おかえりなさい」
「おかえりぃー」
ぼくと切彦おじさんが立ち話していると、鞘子おばさんと姉さんたちが玄関から出てきた。鞘子おばさんが挨拶を口にすると、それに続いて声揃えず同時に姉妹が挨拶する。
「ただいま。鞘子、剣子、刀子。
じゃあね昴流くん。また今度ゆっくり話そう」
三人が出てきたのを見たおじさんは入れ違いに玄関の中へ引っ込んでいき、三人がぼくの元へと訪れる。
三人とも袴姿で、鞘子おばさんの腰には白木造りの刀が差されている。
早めに来ていたぼくを見て刀子姉さんがきししと笑う。
「早ぇな昴流。やる気満々じゃねーか」
「ぼくはみんなみたいに着替えがいらないから」
対してぼくは普段着のままだ。お揃いの袴姿の三人と並ぶとちょっと場違いな気がしてくる。
「まー、そりゃそーか」
と、納得したところで鞘子おばさんが口を開く。
「あんまりおしゃべりしとる時間はないわよ、刀子。
だから昴流くん、手っ取り早く説明させて貰うとね、いつも私らは二手に別れて見回りしてるの。普段は私と娘たち二人の組なんだけど、昴流くんが居る間は折角だから二対二。私と娘のどっちか、余った方と昴流くんの二組に別れて散策しようと思ってるわ」
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