一日目/昼

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「久しぶり、昴流。いらっしゃい」  現れかたも対称的なら、挨拶も対称的だ。一言だけのざっくりした挨拶とは違う丁寧な挨拶。前会った時よりさらに大人びているけれど、相変わらずと言えば相変わらずだろう。 「お久しぶりです、刀子姉さんに剣子姉さん」  会うのは三年ぶりだし、姉妹の外見は瓜二つだけどその個性のおかげで見分けることは簡単だった。  先にやってきた赤いTシャツにハーフパンツ姿が姉妹の妹の刀子姉さん。後からやってきた甚兵衛を着ているのが姉妹の姉の剣子姉さんで間違いない。  加えて言うなら三年前にはなかった二人の容姿の違いというか、隔たりが新たに生まれていたのだけれど。うん、これは言及しない方が良さそうだ。 「どんだけでかくなったかと思ってたけど、ちっこいままじゃねーか。うりうり」 「こ、これでも伸びたんだけど……」  ぼくの背をさらに縮めようとしてるのではないかと疑いたくなるような力を込めた手付きで上からぐりぐりと撫で回す刀子姉さんの笑顔を見上げてみると……情けない話、確かに昔より差が広がったような気もしないでもなかった。 「まあ、うちらもまだ伸び盛りの時期やから」  そんなぼくの内面に気付いてか、それとも知らず知らずのうちに顔に出てしまっていたのか剣子姉さんがフォローを入れてくれた。  その言葉を聞いて、刀子姉さんの笑顔が意地悪く歪むのがわかった。 「成長期だっつー割には姉貴は胸が――ぶはっ!?」  力強い踏み込みに床板が軋んだ音を立てる。ひゅん、と風切り音がしたかと思えば直後には鈍い炸裂音と低い悲鳴。剣子姉さんの切り払うような裏拳が標的のこめかみを捉え、刀子姉さんが床に崩れ落ちてけして心地悪いものではなかった頭部への圧力からぼくは解放された。  ……先程の言及しないという選択肢は正解だったみたいだ。 「昴流。まあ今日はゆっくりと休むとええわ」  剣子姉さんは何事もなかったかのように優しげな笑顔をぼくに向けてから、足腰の立たなくなった刀子姉さんの首をがっちりとロックしてそのまま長い廊下の奥へと刀子姉さんをずるずると引っ張っていった。 「……」 「ちゃんと昴流くんに使って貰う部屋は用意出来てるのよ」  衝撃的な出来事にぽかんとしていると、鞘子おばさんが平然とぼくの旅行鞄を持って廊下を歩き出したので慌てて付いて行く。
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