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廊下を走るのは駄目なのに、今の喧嘩はいいのだろうか。
そう思って恐る恐る聞いて見ると、
「今のは身を守れなかった刀子が悪いのよ」
との答えが返ってきた。
……流石は武家の血筋、と言ったところだろうか。何か武家を勘違いしている気がしないでもないのだけど。
「はい、この部屋よ。しばらく使ってなかったけど掃除は出来てるから、好きに使っていいわよ」
案内されたのは六畳程の和室だった。小さな箪笥が備え付けられ、部屋の真ん中には卓袱台があるだけなので随分と広く感じる。
「お布団はまた持ってくるから」
部屋の中に立ち竦むぼくにそう告げると鞘子おばさんは廊下を引き返していった。
「よいしょ」
一先ず重い旅行鞄を部屋の隅に置いてぼくは廊下へ出る。荷物の整理もしなきゃならないだろうけど、その前に挨拶をしよう。
まだ昼間だから一家の大黒柱――切彦おじさんはまだ帰ってきてないだろうけども。御影のおばあちゃんは居るはずだ。
ぼくの記憶に間違いがなければ、御影のおばあちゃんの部屋は中庭に面していたはずなのだけれど、記憶は三年前のもの。一人でたどり着けか少し心配だ。
先程からきゃあきゃあと言い争う声が聞こえる方に向かって案内を頼むのが確実かもしれないけれど……。
少し考えてから、姉妹喧嘩の声が聞こえる方向に歩き出す。
……なにか決定的に選択肢を間違った気がしないでもないけれど、この広い屋敷で迷うのは避けたかった。
「えと……剣子姉さん、刀子姉さん。ちょっといいかな?」
声を頼りに足を進めると姉妹の部屋にたどり着いた。親戚とはいえ女の子の部屋に勝手に入るのはどうかと思い部屋の外から声をかけると、言い争っていた声がぴたりとやみ襖が開かれた。
「昴流か丁度良かった、ちょっと来い!」
「へ?」
現れた刀子姉さんに腕を掴まれて部屋の中に引っ張りこまれる
「昴流からも言ってくれよ。このクソ姉貴、人のこといつもお転婆だのじゃじゃ馬だのいいやがるくせに、いきなり殴り倒しやがって! じゃじゃ馬なのはどっちだってんだ!」
……刀子姉さんがじゃじゃ馬でお転婆なのは客観的な事実だと思うので、曖昧に苦笑いを浮かべておく。
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