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「うちは事実を述べただけや。殴り倒したのだって刀子に非があるからやないか。昴流もそう思うやろ?」
確かに身体的特徴をとぼした刀子姉さんも悪かったと思うが、人体の急所(テンプル)に炸裂音が響き渡る程の裏拳を打ち込まれる程かと考えると、そうでもないと思う。
なのでこちらに対しても苦笑いを浮かべるに留めておく。
「へんっ! 成る程成る程、自分の胸をとぼした奴を片っ端から襲う妖怪だもんなぁ、チチ無し女は。そりゃあ仕方ねーや! べっこう飴やるからしっしっ!」
「な――なんやとぉ!? 姉に向かってなんて言い種っ……!」
刀子姉さんの吐き捨てた煽り文句を聞いて、剣子姉さんがわなわなと震え出す。
――ああ、駄目だ……間違いなく殴り合いが始まる。逃げれない、巻き込まれる。
やっぱり選択肢を間違ってしまっていたかとぼくがうずくまって頭を抱え、その頭上で殴りあいが始まるかと思われたその時だった。
「折角来て下さったお客様の前でみっともない真似はお止めよ!」
ありきたりな表現だが、まさに雷のごとき一喝が部屋に響き渡った。
身体の芯まで響きわって身をすくませ、過熱していた空気を一気に冷ます一言。
顔を上げて部屋の入口を見れば三年前の記憶の姿そのままに、凛々しくもぴんと背を伸ばした綺麗な姿勢で御影のおばあちゃんは立っていた。
おばあちゃんが静かに一歩を踏み出す。それだけで姉妹がそろってびくっと身体を震わせた。
しかしおばあちゃんが向かったのは立ったまま固まった二人の元に行くのではなく、床にうずくまるぼくのものだった。
「いらっしゃい、昴流ちゃん。よう来たわねぇ」
顔を皺くちゃにして優しく微笑んで、ぼくの頭を撫でるおばあちゃん。
温度は下がっても張り詰めたままだった空気がようやく弛緩して、姉妹は同時に膝をついた。
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