七夕挿話

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天地が生まれて間もない頃、地上には神の創ったいくつもの命が息吹き、平和な日々が流れていた。 そんな豊かな地上に、彦星と呼ばれた牛飼いの男がいた。 彦星はまじめな人柄で、東の地から日が昇り西の地へ沈むまで休まず働いていた。 来る日も来る日も力を惜しまず働き続け、彦星は心の底から充実した毎日を送っていた。 そんな彦星の姿を天から眺めていた一人の天女「織り姫」は次第に彦星に惹かれていった。 しかし天女と人間が語り合うことなど許されるはずもなく、叶わぬ思いを抱き続けたまま時はいくつも過ぎていった。 しかしある時、織り姫は彦星への思いを抱えきれなくなってしまった。 織り姫は二度と天へ戻れなくなることを覚悟して、掟を破り地上へ降りていった。 突然現れた織り姫に彦星はとまどいながらも、この世とは思えないほどの織り姫の美しさと優しさに彦星は心を奪われ、やがて仲むつまじい夫婦となった。 そんな二人の姿を天から見ておられた神様は、織り姫の一途な思いと彦星のまじめな人柄に、掟を破った織り姫を許しそっと地上の二人を見守っていらっしゃった。しかし次第に織り姫と彦星は、牛飼いの仕事をせず一日中遊んでばかりいるようになった。 そんな二人の姿に神様は怒り、織り姫を無理矢理天へ連れ帰ってしまう。 織り姫を失った彦星は、悲しみ嘆くがどうすることもできず、それまでの自分を反省し再び朝早くから夜遅くまで働き続けた。 天へ連れ戻された織り姫は、悲しみが癒えずいつまでも泣き続け、とうとう涙は枯れ果ててしまった。 それでも織り姫は泣きやもうとはせず、いつまでも悲しみから抜け出せなかった。 そんな二人を見ていた神様は、一度だけ機会を二人に与えることにされた。 神は二人へ一つの試練を与えた。 蓬莱の白玉の枝を三日三晩、誰にもとられぬよう飲まず食わず寝ずの番を彦星へ命じたのだ。 様々なもの達が、白玉を狙って次々とやってきたが、彦星は一晩、二晩と番役をこなした。 三日目の晩、彦星は眠気と空腹、喉の乾きに必死に耐えながら東の空から陽が昇るのをいまか、いまかと待ち望んでいた。
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