昔話 [1] 『失』

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そこは薄暗い場所だった。 友が、仲間がいたからこそしのぐことも出来た。 彼らが、倒れていくのを見るのは…辛かった。 「いいかゼノス、お前は生きろよ」 「阿呆!そんな事を言う暇があったら、痛みに意識を集中しろ!目を閉じても殺す!」 「ハハ、もう痛みなんか、とうの昔に感じてねぇよ…苦しいだけなんだ、腹の辺りが…熱いような、なんつーか…」 「俺が知るか!俺はお前を生かす、そう決めたんだ生きろ!」 「無茶苦茶言いやがって」 ゴホッと咳をした青年の口から、腹から溢れている水と同じ色の液体が吐き出された。 目も覚めるような赤だ。 彼の水晶色の長い髪が、紅に染まっていく。 ゼノレウスは彼の腹を手で押さえ、癒しの奇跡を使いながら彼よりも苦しげに眉を寄せた。 「ゼノス…そんな顔すんなよ。今度さ、俺、ガキが生まれんの。レシィと俺の子だぜ?絶対可愛いと思うんだ」 「んなワケあるか、お前に似て性格最悪に育つに決まってる」 「いいんだよ顔が可愛けりゃ。性格なんて二の次だ」 「ホント最悪だお前は」 飛び交う軽口にも勢いはない。 それでも、彼は軽く笑った。 「…魔王が泣くんじゃねぇよ。俺達の最強が、そんな情けない面見せんじゃねぇ」 「うるさいお前が死ぬのが悪いんだ」 「レシィとガキのこと、…頼むわ」 「嫌だぞ。まだ嫁もいない俺が何で後家さんの面倒見なきゃならんのだ」 「拒否権なし。あ。女ならシルヴィア、男ならシグルドな」 「忘れるからな。俺は絶対忘れるからお前が戻ってつけろ」 「悪い…、…レシィ…に………ごめん、て………」 それが、彼の最後の言葉になった。
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