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「………ッ!」
腕の中で温度を失っていく肉塊に、ゼノレウスはギリッと奥歯を軋ませた。
「ゼノレウス様、ご指示を」
「…退け。この死を無駄にしてはならん」
そっとその瞼を撫で下ろす。
薄い皮膚はさしたる抵抗もなく下がり、眼窩を隠す役を果たした。
「しんがりは俺がする。先に行け」
「…は。」
簡素な鎧を身に纏った兵士が、一礼をして小走りに去る音を、ゼノレウスはどこか遠くに聞いていた。
言葉の抵抗は虚しく破られ、つい半日前まであった笑顔は二度と戻らないものになった。
周りの者の心に、大きな爪痕を残したまま。
震える息をどうにか吐き出して、ゼノレウスはその眼窩の上に指を置いた。
「…お前の種族は残酷だな。流れる血はこんなに赤く熱いのに…冷血だという言葉がピッタリだ」
躊躇いが指を何度も瞼の上を撫でさせる。
やめろと止める腕はない。
笑いながら振り払われるのを期待するかのように、ゼノレウスは何度も何度も瞼を撫でた。
「…生きろと言ったのに、勝手に死にやがって。俺の命令だぞ。もう少し根性入れろ」
恨み言をいくら重ねても、瞼は開かない。
ゼノレウスは深く息を吐いて、…グッと眉間に皺を寄せ奥歯を噛み締めた。
「次は陽の当たる楽園で逢おう」
ぐちゅりと。
爪で青年の瞼を裂いて、指を眼窩にめり込ませる。
既に事切れた肉塊は、ピクリともしなかった。
そのまま眼球を傷つけぬようにくり抜く。
視神経と筋肉を引き裂くブチブチという感触が、胸に苦しかった。
水の奇跡を呼び、青い水晶体を宿した二つの球体を清める。
紅から逃れた蒼い双球は、ゼノレウスの手の中で嬉しそうに僅かな光を反射した。
「…お前が見たもの、届けてやる。だから…ゆっくり休め」
横たわる青年の懐をあさり取り出した小瓶に、蒼い双球を入れる。
中に入っていた液体に、ポチャンと軽い音を立てて彼は沈んでいった。
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