10人が本棚に入れています
本棚に追加
色気ない茶封筒の表には、たったの三文字しか書かれていないが、脳がソレを受け付けていない気もする。
『請求書』
「どゆこと?」
何で仕事した方にンなもんが来るんだ?
「馬鹿だバカだと思ってましたが、ここまでヴァカだと気持ち良いですよね」
何気にサラリと酷い事言われてる気がしますが。さっきの仕返し? 口に出していないが、多分こいつは俺が何を考えていたのか感づいているだろうし。
「つまりね~、あのお部屋が使えなくなったから~、シューリ代をセイキューします~。なんだお~」
よく出来ました、と笑顔で彼岸の頭を撫でる。
いやイヤ嫌。ソレはおかしいだろ。
前に言ってるが、俺はクラッシャー。破壊をするのが仕事であって、修理は仕事に含まれておらん。壊滅させろと言ったのは精蘭だ。
「まあ、三十数人分の死骸を放ったらかしにした訳ですし、それだけの血が流れたら匂いが残ったり、塗装、内装全てパァですから。修理代及び損害賠償ですね」
「お前、壊滅させて良い、て言ったよな?」
その疑問に対して、これ以上にないくらい、にこやかな笑顔を添えて恐ろしい答えが返ってきた。
「言いましたよ。後が使えるように、とも言いましたが」
…あの時聞こえなかったのは、その部分だったと言う訳かよ。ある意味確認を怠った俺が悪いかもしれねぇが…
この請求額を払うのは無理だろっ。何で億近い単位になるんだよ!
「当然、君に払える訳がないので私が肩代りしまして、流石にタダは可哀相だと彼岸が言うので、特別に、私の手料理を、特別に食べさせた訳です」
どさくさに紛れて『特別に』て二回言われた気がするのは間違いじゃないよな。ついでに、俺は彼岸に同情されるレヴェルかよ。
キッツイな、とは言え、自業自得なんだから文句を言えない。いや、言ったら即殺だ。
いやはや、俺は上司に恵まれていない気がする。
「なんだか、また楽しげな念波ですねぇ」
部屋の温度が下がった気がするのは気のせいにしたいんだけどな~。
そう願いながら振向いたら、悪役的な黒い笑顔で仁王立ちしている精蘭と視線が合わさった。
その後、俺が阿鼻叫喚の地獄に招待されたのは言うまでもないだろう……
都会の闇の中、その影に潜む異形を狩るのが仕事である俺は、恐怖を感じる感覚が鈍いのだが、一番の恐怖は、精蘭以外に有り得ない……
最初のコメントを投稿しよう!