黒い封筒

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   色気ない茶封筒の表には、たったの三文字しか書かれていないが、脳がソレを受け付けていない気もする。   『請求書』   「どゆこと?」  何で仕事した方にンなもんが来るんだ?  「馬鹿だバカだと思ってましたが、ここまでヴァカだと気持ち良いですよね」  何気にサラリと酷い事言われてる気がしますが。さっきの仕返し? 口に出していないが、多分こいつは俺が何を考えていたのか感づいているだろうし。  「つまりね~、あのお部屋が使えなくなったから~、シューリ代をセイキューします~。なんだお~」  よく出来ました、と笑顔で彼岸の頭を撫でる。  いやイヤ嫌。ソレはおかしいだろ。  前に言ってるが、俺はクラッシャー。破壊をするのが仕事であって、修理は仕事に含まれておらん。壊滅させろと言ったのは精蘭だ。  「まあ、三十数人分の死骸を放ったらかしにした訳ですし、それだけの血が流れたら匂いが残ったり、塗装、内装全てパァですから。修理代及び損害賠償ですね」  「お前、壊滅させて良い、て言ったよな?」  その疑問に対して、これ以上にないくらい、にこやかな笑顔を添えて恐ろしい答えが返ってきた。  「言いましたよ。後が使えるように、とも言いましたが」  …あの時聞こえなかったのは、その部分だったと言う訳かよ。ある意味確認を怠った俺が悪いかもしれねぇが…  この請求額を払うのは無理だろっ。何で億近い単位になるんだよ!  「当然、君に払える訳がないので私が肩代りしまして、流石にタダは可哀相だと彼岸が言うので、特別に、私の手料理を、特別に食べさせた訳です」  どさくさに紛れて『特別に』て二回言われた気がするのは間違いじゃないよな。ついでに、俺は彼岸に同情されるレヴェルかよ。  キッツイな、とは言え、自業自得なんだから文句を言えない。いや、言ったら即殺だ。  いやはや、俺は上司に恵まれていない気がする。  「なんだか、また楽しげな念波ですねぇ」  部屋の温度が下がった気がするのは気のせいにしたいんだけどな~。  そう願いながら振向いたら、悪役的な黒い笑顔で仁王立ちしている精蘭と視線が合わさった。  その後、俺が阿鼻叫喚の地獄に招待されたのは言うまでもないだろう……  都会の闇の中、その影に潜む異形を狩るのが仕事である俺は、恐怖を感じる感覚が鈍いのだが、一番の恐怖は、精蘭以外に有り得ない……  
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