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久方振りのお日様の下、目的のビルの前でサングラスを押し上げる。夜型人間、日の光に弱し。グラサンは手放せましぇーん。
「ここ…か」
ちゃちいDM送る割には良いトコ使ってんな。
駅から徒歩十分弱。商店街も近く、一階にも様々な店を抱える近代的高層マンション(20階建て)。人通りも良いし、一等地ってヤツですか?
タイミング良く下に来ていたエレベーターで14階を選ぶ。そこに目的の店がある。日中だからか他に乗ってる奴はいない。これで店にも客がいなければ好都合だ。
そんな事を思いながらエレベーターから降りた瞬間、頭を抱えたくなってしまった。
降りて直ぐ目の前にその店があるんだが、看板も黒けりゃ扉も黒。本気で怪し過ぎるだろ。ここらで引き返す事が出来んのかいね。
それと、これは所謂オカルトと言われる事に興味がないと解らないだろうが、扉に刻まれている模様は『邪悪の樹』と呼ばれるモノだ。そういや店の名前の『Qliphoth』はそれの外国語読みだったな。チッ、直ぐに気付けねぇのは情けない。ま、寝起きの頭じゃ無理だ。
ブツクサ言いながらその扉に手をかけた。勿論、既に思考はクラッシャーとしての感覚に切り替わっている。そうなった場合、扉を隔てようが壁があろうが人の気配を感じる事が出来る。中に一般の客はいなさそうだ。…異形の気配は嫌って程感じてるがな。
しかし、感覚だけを信じる訳にはいかない。まかり間違えて一般人を巻き込んでしまったら精蘭に殺される。
「いらっしゃいませ。御予約は御座いますか?」
黒タキシードに身を包んだ奴が腰から礼をして尋ねて来る。バイトじゃなさそうだ。
「予約はない」
「失礼ですが、当店のカードはお持ちでしょうか?」
「いや、アカリって奴の紹介でね」
本当は持っているが、目的は此処のトップ。話がスムーズに進んでは困る。なので適当にでっちあげた名前を出している。
カウンターの裏にあるパソコンを操作して小首を傾げるスタッフ。本当にその名前があったら困るが、どうやら該当者は居ないみたいだ。助かった。
「オーナーを呼んで参ります。お待ち戴けますか?」
「煙草良いか?」
「そちらの待合室でお願い致します」
全く、喫煙者は辛いやね。煙草税はかなりの収入になってると思うんだけど。ま、此処は個人営業の場所だからそんなの関係ないか。
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