黒い封筒

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   硝子張りの喫煙所兼待合室から店内を観察する。幸いな事に一般客は居ない。  一見は小洒落たBAR。けど、ここはそんなヤワイ所じゃない。俺の内を走る血が騒いでいる。視界に入る従業員は全員一般人じゃない。大抵は解らないだろうが、立ち居振る舞いが微妙にぎごちない。  そうだな精蘭。上手い事壊してやるよ。  久し振りに暴れられる仕事を持って来た精蘭に内心で感謝しつつ、唇を舐め、獲物がやって来るのを待った。  三本目の煙草が終わりかけた頃、頭に白い毛が混り初めている上品な女性がやって来た。僅かに刻まれている皺がチャーミングとも言える。これとて通常の感覚で見ればの話だ。クラッシャーの感覚で言えば、胡散臭さ満載ってトコだな。  「アカリさんと言う方は当店に御登録がないのですが、御名前が違う事はありませんか?」  「ああ、違うよ」  婦人の顔を見ない様にしながら灰皿に煙草を押し付ける。  懐かしい感覚だが、まだだ。まだ暴れるな。こいつに罪悪の意識があるのか確認してからだ。  「あら、では本当の御紹介者はどなたかしら」  (黒称精蘭……)  わざと人が聞取れないように低く小さな声で呟いたが、婦人が息を飲んだ。  「……しくじったな。そこで反応しなければ、もう少し生きられたものを…」  垂れ下がった前髪の隙間から睨み付けてやると、婦人が正体を表した。    下半身は蛇、上半身は人間。だが、その口から見えるのは蛇の舌。俗に言う蛇女って奴だ。  「何人ヤッた……?」  「そんなモノ数えておらんわ!」  馬鹿が……『オレ』を解放しやがった!  沸き踊れ我が血脈よ。新な狂宴の始まりだ!  体内を駆巡る血が熱くなる。俺が『オレ』に変る。  
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