10人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数日――
「焔矢、起きなさい」
長椅子で寝て居る俺の肩を誰かが揺さぶる。まだ、眠い……
「エーン。おっきろ~!」
「グエェ!」
ドスっと腹の上に何かが乗っている。勘弁しろ。色々出ちまうからっ。
叩き起こされて、ぼんやりとしたまま視線を投げると、腹に笑顔の彼岸。横には何考えてるか解らない、無表情の精蘭が立っていた。
「今、何時だよ」
彼岸を腹から下ろして体を起こす。精蘭の前で横になってるのは、どうしても落ち着かない。…別にその気がある訳じゃないからな。ただ…何故か、こいつの前で横になってると…不安に襲われるのだ。
「夜の十時です」
机に置いてある置き時計を指差し、更にはカーテン開けて窓の外まで見せてくれやがった。
あー、そーですか。一応気を使ってくれたのかよ。てか、そこまでやらんでも良いだろが。嫌みか、こん畜生。
大欠伸をかまして立ち上がると、腹が鳴った。そういや今日は何も食ってないな。
「セイがピザ作ったよ~。エンも一緒に食べよ~」
その音が聞こえたからなのか、元からそのつもりだったのか、彼岸が笑顔でダイニングに連れて行こうとする。
「へいへ…」
飯にありつけるならばと手櫛で髪を押さえて彼岸に促されるままに行こうとして気付いた。
精蘭が『作った』飯…?
一抹の不安を覚えて精蘭を見ると、これ以上にない程満面に笑みを浮かべている。
明かに怪しいだろ、その笑顔はよ!
いや、しかし…彼岸も食べる訳だから、何かする筈はない。気のせいだろうか?
そう思いきや、考えが甘かった。それが解った時には既に遅しだったが……
「ごっそさん。お前、料理出来たんだな」
「セイはいっつもヒガンのご飯作るの~。美味しいの~」
「さよけ」
食後の一服をしながら動き回る精蘭と彼岸を眺める。
一応この部屋の主は俺で、この二人は言わば客になるが、片付けもやってくれると言うのでそのまま任せた。
二人並んで食器を洗う姿は、ある意味微笑ましい。ガキである彼岸は背が届かなくて踏み台まで使って精蘭を手伝おうとしてる、てのが何とも平和的なんだが……
最初のコメントを投稿しよう!