五章・警鐘の雨

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雨が音をたてて屋根を揺らす。 春の雨は少し冷たく冬の名残を感じさせるのには十分だった。 窓辺にたちながら、その青年は降り続く雨を見つめていた。 「殿下、気分でも?もしやお加減が…」 お盆にお茶を乗せた老婆は、心配そうに問うと青年は首をふり、優雅に長椅子に座ると老婆に視線を向ける 「…莉笙、殿下は止してくれ。私はもう皇子ではないよ?」 「…何を申されます!この婆にとって、殿下はいつまでも皇子にございます!」 勢いよく言う老婆に青年はくすりと笑うと、自分の右手の腕輪をみる 罪人である証の腕輪…外す事はできず、これがある限りこの青年は罪人のままである。 「おいたわしや…皇子の中で最たる知者であり、高貴なる母君をもつ殿下が…このような…恥辱を受けるとは…!」 ハンカチを噛みながらキーッとむくれる老婆に青年は苦笑すると、お茶受けにだされた菫の砂糖づけをひょいっとつまみ、口に運ぶ 「…伯父上も余計なことをしてくれたものだ…そもそも私は14と争う積もりは毛頭なかったのだがなぁ…」 「殿下!何を弱気な事をおっしゃられてますか!純血である貴方様がそんな弱気では、亡き皇后さまは浮かばれませぬ!」 激昂しる老婆に青年は苦笑するしかなかった 「もう、終わったんだ…終わったんだよ莉笙。…私達は負けたのだ。父上にね…」 「…へ?」 キョトンと目を丸くする老婆の姿に青年は、それ以上何もいわず窓の外の雨を見つめる 「……少し、長引きそうだね…」 その呟いた言葉は雨が長引くことを示しているのか…別の意味も含まれているようにも思える。 元五番目の皇子は、静かな山間の館で降り続く雨の中、すっかり変わった世情に我関せずといったように手元の茶を啜っていた。 「…なんかこう…うざったい。」 炯花は降りしきる雨を見ながら、窓枠に肘をついてポツリと呟いた。 その呟きを聞いた枝明と浩巽は互いの顔を見合わせる (なあ、枝明君…なんか李昭義様なんか嫌な事でもあったのかい?) (嫌なこと…と言うより、鬱憤が溜まってるだけじゃいですか?) ひそひそと話していた二人は再び炯花へと視線を向ける やっぱりいつもより元気がない。
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