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彼と電話で話した。
お互いの近況を話したり、地元の知人の近況を聞いたり…久しぶりで、時間は空いたけれど、いつもと変わらない会話をした。
でも、昔、付き合っていたことは、二人ともギリギリのところで言葉にしない。
私はいつも彼と話すと、すんでのところで本音を飲み込む。
「ねぇ、せんせ。抱いてほしい。」
言っちゃいけない。
不幸のループにしかならないのだから…。
ここ数年、私が恋に本気になれないのは、彼を引きずっているからかなぁと思う。
かつて、自分から別れを切り出しておきながら、勝手な女なんだけど。
彼は二十年前、彼が今の私の年齢の時に薬指にリングを嵌めている。
そのリングを彼が日常的に着けないのは、私のような女と遊ぶためだと、私の本能が危険信号を出している。
彼は酷い男だと。
恨めたら良かった…
捨てられて傷ついて、ズタズタボロボロになってしまったなら…
もう二度と顔も見たくないと言えるのに…
私は強くない。
優しくされるとなびく。
それが、例え、既に枷を嵌めた囚人であったとしても…。
けれど、もう私は、あどけなさの抜けない少女じゃない。
分別のある大人の女性なのだから。
彼はもう既に、背徳の過去を墓場の中に埋めてたのだろうか…。
彼が私に連絡してくるのは、私の中にある背徳の過去が漏れないように、監視をしているのではないかと思う時がある。
そう思うにつけ、彼の人生は守りの時期だからなぁ…と納得するようにしている。
僅かに残っている私の理性…。
全てを捨てるほどに、惚れて、焦がれて、求めて欲しい。
静かに高まる私の欲求…。
「ねぇ、せんせ…」
私は、胸の内で彼を求めた。
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