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岩村秀一
彼は黒板に自分の名前を横書きした。
「初めまして。いわむらしゅういちと言います。このクラスの担任とこの学年の英語を担当することになりました。よろしくお願いします。」
と挨拶をすると、そのまま簡単な自己紹介をした。
歳は34歳。
部活は吹奏楽部でトランペットを吹くこと。
お酒が好きなこと。
掃除が嫌いだけど、先生という立場上サボらないようにしていること。
そして、結婚9年目で、子どもはいないこと…。
「先生、子どもはつくらないんですか?」
男子生徒がからかいまじりの質問をする。
「そうだねぇ。俺にはこんなにたくさんの子どもがいるからな…。君が手が掛からない子どもなら、自分の子どもを育てる余裕ができるかもしれないな。」
彼の話に、クラス中から何度となく笑い声が上がった。
冗談や軽口も言える気さくな先生。
それが、生徒たちが下した彼に対する最初の評価のようだった。
しかし、相変わらず、先生にあまり興味を持てない私は、上の空で彼の話を聴きながら、赤茶色のジャケットを気にしていた。
ジャケットの裾が少し、チョークの粉で白く汚れている。
彼が教壇に立てば立つほどに、このジャケットは白くなるのかな…そんなことを漠然と思っていた。
自己紹介が終わると、彼は生徒一人ひとりの名前を呼び始めた。
そして一人ひとりに挨拶をしていく。
そして、私の名前が呼ばれた。
「高野奏(かなで)さん。」
「はい。」
私は、他の生徒と同じように少し手を上げて返事をした。
そして、彼もまた、他の生徒にそうしたように
「よろしく。」
と一言挨拶を付け加えた。
そうして、彼は私の担任になった。
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