プロローグ

3/3
前へ
/9ページ
次へ
岩村秀一 彼は黒板に自分の名前を横書きした。 「初めまして。いわむらしゅういちと言います。このクラスの担任とこの学年の英語を担当することになりました。よろしくお願いします。」 と挨拶をすると、そのまま簡単な自己紹介をした。 歳は34歳。 部活は吹奏楽部でトランペットを吹くこと。 お酒が好きなこと。 掃除が嫌いだけど、先生という立場上サボらないようにしていること。 そして、結婚9年目で、子どもはいないこと…。 「先生、子どもはつくらないんですか?」 男子生徒がからかいまじりの質問をする。 「そうだねぇ。俺にはこんなにたくさんの子どもがいるからな…。君が手が掛からない子どもなら、自分の子どもを育てる余裕ができるかもしれないな。」 彼の話に、クラス中から何度となく笑い声が上がった。 冗談や軽口も言える気さくな先生。 それが、生徒たちが下した彼に対する最初の評価のようだった。 しかし、相変わらず、先生にあまり興味を持てない私は、上の空で彼の話を聴きながら、赤茶色のジャケットを気にしていた。 ジャケットの裾が少し、チョークの粉で白く汚れている。 彼が教壇に立てば立つほどに、このジャケットは白くなるのかな…そんなことを漠然と思っていた。 自己紹介が終わると、彼は生徒一人ひとりの名前を呼び始めた。 そして一人ひとりに挨拶をしていく。 そして、私の名前が呼ばれた。 「高野奏(かなで)さん。」 「はい。」 私は、他の生徒と同じように少し手を上げて返事をした。 そして、彼もまた、他の生徒にそうしたように 「よろしく。」 と一言挨拶を付け加えた。 そうして、彼は私の担任になった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加