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結論から言えば、俺の試みは成功した。
眼前に撒いた結晶が発光。
俺の呼びかけに応じた『向こうの連中』が顕現し、一瞬で結晶を食らい尽くす。
本来なら、呼び出しの前に長ったらしく細かな命令を決めておかなければならないのだが、生憎と時間がなかった。
短い集中の中、俺が『そいつら』に頼んだのはたった一言。
『暴れろ!』
蛍のような姿の小さな暴君。
俺が『雷(らい)』と呼ぶそいつらが、近くに存在する対象に襲いかかる。
即ち、強酸に。
カエルが吐き出し続けていた強酸の濁流に電流が絡み付く。
流れ込んだ電子の奔流が、強酸を伝導体としてカエルの体内に逆流。
電光。
生き物に電流が流れる異臭。
化け物ガエルが身をのけぞらせ、奇声と共に硬直。
口や鼻の穴から白煙をあげて痙攣し、やがて大人しくなった。
運が良かった。
もしカエルが舌で襲ってきたら、為す術もなかっただろう。
「ざまあみろ化け物」
その様子を確認して、俺は地面に倒れ込む。
魔法、魔導、魔術。
使うには九の才能と一の努力が必要と言う何とも不平等なそれは、様々な呼称で呼ばれるものだ。
俺はただ、『向こうの連中』を結晶という名の餌で釣っただけだが。
「くそ、やっぱ報酬に色付けて貰わないと納得出来ない。てか絶対にしない」
強酸が触れたらしい背中の痛みと、体の痺れに顔をしかめる。
短い集中では、呼び出した『雷』を完全に制御出来なかった。
いやまぁそれはいい。
俺に魔術の才能が中途半端にしかない事は分かっている。
が、事もあろうに、『雷』の一部が俺の剣に襲いかかりやがった。
剣がコートの内側にあった為にコートの耐電性も発揮されず、モロに電流を浴びるはめになったのだ。
鞘と握り手に改良の余地があるかもしれない。
「クソッタレめ」
痺れが取れてきた。
痛みを無視して無理矢理立ち上がる。
一応依頼品の鉱石は無事だが、コートが駄目になった上に決して安くはない結晶を使ってしまった。
ドラゴンを相手に生きていられるだけで幸運なのかもしれないが、最早溜め息しか出ない。
さっさと帰って寝るとしよう。
薄暗い地下遺跡で、趣味の悪いオブジェと化したカエルを横目に俺は地上に向かおうとし――そこでふと動きを止めた。
脳裏で悪魔の囁き。
こいつ、切り刻めば売れるんじゃないか?
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