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その悪魔の提案を、俺は速攻で受け入れた。
無意識に漏れる笑い声。
体長三メートル以上の無駄に巨大なカエル。
こいつを丸ごと持って帰るのは、貧弱な俺の身体では無理だろう。
しかし、ドラゴンを倒せたという幸運を無駄にするつもりはない。
魔術を使うモンスターは、体内で『晶石』を生成するという生態を持っている。
モンスターが魔術行使の為に体内で作り上げた『晶石』を加工した物が、先ほど俺が使った結晶だ。
そして、クソ高い結晶の原石とも言うべき『晶石』は、どんな所でもかなりの高値で取引される。
俺は薄笑いを浮かべながら剣を抜く。
何せドラゴンの『晶石』だ。
おそらくは拳大以上の代物。
コートと結晶代を差し引いても釣りが来る副収入を、万年金欠の俺が逃す手はない。
ヌメった光を放つカエルの腹の前で剣を振りかざす。
振り上げた剣が鏡となり、金の亡者となって下卑た笑みを浮かべる俺の顔を映した。
戦慄。
剣に映った自分の姿を見て僅かに我に帰った瞬間、俺の理性が全力で警鐘を打ち鳴らした。
俺は迷わず剣を納め、カエルの脇を駆け抜ける。
確信などないが、こういう時の俺の勘は悲しい程に当たってきたという経験上、本能に従っておく。
轟音。
俺の背後で、物言わぬ死体と化していたはずのドラゴンフロッグが動き出していた。
手足の一撃で瓦礫を粉砕する両生類を見て、自らの直感を褒め称えてみるが、全く嬉しくない。
再びの危機を悟ると同時、カエルの口で閃いた舌が俺の足元に着弾。瓦礫が破砕される。
先ほどより鈍い動きと攻撃を外した舌を見るに、一応効いてはいるようだが、体内を蹂躙した俺の一撃は、カエルを気絶させただけだったらしい。
巨体から殺意の圧力を放射しながら、蛙にあるまじき四足走行で追ってくる蛙竜。
電流で白濁した眼は憤怒を宿し、俺の事を餌ではなく敵だと認識したようだった。
欠勤中の俺の相棒なら光栄だと受けて立つだろうが、俺としては全力で拒否したい。
――全力疾走中の俺に、上り坂を経た前方から地上の光が差し込む。
久しぶりに光と希望を見い出した俺だったが、距離を計算して再び気が遠くなる。
背後からは、世にも珍しいカエルの咆哮と破壊の二重奏。
地上までの道のりは、俺の人生の険しさを象徴するようだった。
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