俺の『空』

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「ひなたさん。久しぶりに、屋上に行きませんか?」 そう言い出した、君。 君との出会いは、屋上だったね。 あれ以来俺にとって、屋上は特別な場所。 「おととい新月だったから、もう月が見られるかもしれませんよ」 「それはいいね。行こうか」 「…うわ。風強い」 夕方だから、風も少し冷たい。校庭を見下ろせば、ほとんどの生徒はもう下校しているようだった。 上を見れば、オレンジ色の空に浮かぶ細い月。 「…このまま溶けちゃいたいなぁ…」 思わずつぶやいた言葉。 「ダメです!ひなたさんが溶けちゃったら、僕が淋しいです!!」 ムキになって言い返す君が、あんまり可愛くて…唇を重ねる。 「…何してるんですか」 「いや、つい。可愛かったもんで」 「何言ってんですかっ、全く…仕方ないなぁ、ひなたさんは」 ほら。 そうやって君は微笑んで、俺を許してしまうんだ。 俺を包んでしまうんだ。 「…俺は、君がいなきゃ何もできないよ…」 「?何か言いました?」 「何でもないよ」 君は俺に、いろんな表情を見せてくれる。 楽しくて、嬉しい。 そして、こんなどうしようもない大人を、笑って受け入れてしまうんだ。 その大きな心は、大空のよう。 「…さ、そろそろ帰ろう。空」 「はいっ」 君の名前は、空。
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