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「――セレネ」
まただ……。
今度は、はっきりと“セレネ”という言葉が聞こえた。
いや、聞こえたというよりは、自分に呼びかけているのだと知らせるように、頭に響いたような気がした。
――せれね?
私の名前は葉月 瑞(はづき みず)であってセレネと呼ばれたことは一度もないし、自分に関係するようなことでもない。
本当に頭でもイカレタかな?
それとも疲れが溜まってはっきりとした幻聴が聞こえたいるとか……。
どちらにしろ、軽く頭を冷やしたほうが良さそうなことは確かだ。
そう思い、ぐっと身体を起こすと、頭を鈍器で殴られたかのような鈍い痛みが、いきなり走った。
『くぁ……っ!』
なに?この頭の痛みは……。
私、何か罰当たりなことでもした?
日頃の行いを頭に思い浮かべるものの、思い当たる節もなくて……。
『頭、が……割れちゃう、よ……』
早くこの痛みから逃れたいと思っているけど、痛みは退くこともなく、その強さを増すばかり……。
「――セレネ……」
再度、頭に響く“セレネ”という言葉。
『くっ……』
その言葉が響くと、頭の痛みは一層増した。
強くなる一方の頭の痛みで、段々と意識が朦朧としてくる。
『わ……私、は……セレネなんかじゃ、ない……』
頭に響いてくる声の主に歯向かうように、言い返してみるものの、痛みのせいで蚊の鳴くような声しか出ず、意識はますます遠くなっていく。
「――お……前はセレネだ……。逃が……しはしない」
私の蚊の鳴くような反論に返事が返ってきた。
“逃がしはしない”だって……。
私の拒否権なんか全く無視なのね……。
なんて勝手なのかしら……。
薄れていく意識の中、そう悪態をついてはみたものの、何ができるわけでもなく私の視界はブラックアウトした。
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