63人が本棚に入れています
本棚に追加
『さてと動かなきゃね……』
視線を足元が戻し、ポツリと呟いた。
ずっと突っ立ったままでは確実に凍死してしまうし、今、天気が穏やかだからといって、いつ荒れるとも限らない。
その内お腹も空くだろうし。
再度、場所を確認するために辺りを見渡してみるが、やはり誰かがいるわけでもなく、ただ木々が至る所に突っ立っているだけだった。
『でも、まだ近くに私をここに連れてきた声の主がいるかもしれないわ』
もしいなかったとしても、寒さを凌げる場所くらいはきっとあるはず。
『さあ、瑞!とりあえず歩くのよっ!!』
そう自分を叱咤すると、行く宛てもないまま足を進め始めた。
――少し歩いて気づいたこと。
それは、どうやら私は森の中にいるらしいということのみ。
ずっと歩いてみてはいるんだけど、木に囲まれた状況に何ら変化はない。
もちろん人っ子一人、未だ見掛けられずにいる。
『さすがに疲れた……』
何しろ既に一時間近く歩きっぱなし。
そして誰にも遭わないどころか、森の中からすら抜け出せない状態……。
木、木、木と何一つ変わらない背景で、余計に頭が混乱してきていた。
『――本当どこなの、ここは!なんで誰もいないのよ!?』
そう叫んでみても、私の声が森の中にこだまするだけだった。
泣くまいと必死に堪えていたが、子供の時親とはぐれ迷子になった時のような……そんな絶体絶命な状況に涙が溢れてきた。
『お家に帰りたい……』
帰りたいよ……。
一人じゃない場所に。
ねぇ誰か来て……。
一人が一番怖いのっ!!
歩く気力も無くなり、近くに生えていた木へもたれ掛かるようにして、ずるずると体を滑らせ、そこにうずくまった。
寒い中に薄着で長時間いたため感覚は全く無い。
もう冷たいとか寒いとか、全く関係なくなっていた。
――ここは何処……?
――あの声は誰……?
――セレネって……?
――何で誰もいないの……?
――私はなんで……こんな所に連れて来られたの?
ただ答えの返ってこない疑問だけが頭を埋め尽くし、死への不安が増すばかりだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!