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渋谷が、彼が今家に一人だと言うものだから。以前作らせてもらった合鍵でこっそりとお宅にお邪魔する。
僕が合鍵を持っているのを知るのは美子さんと、当然ながら渋谷。その二人だけだ。
だから彼は僕がこうして簡単に侵入出来る訳を知らない。
今も、鍵を締めたはずなのにとばかりに眉を顰めて盛大に怪訝そうな表情を浮かべた彼がいた。
「………何しに来た、弟のオトモダチ」
それでも年上の威厳とかで絶対に疑問をこちらにぶつけず唸るようにそう言う彼は、とても可愛いと思う。
彼の部屋の扉にもたれかかり、良かった機嫌を更に良くしながらにこやかに応対する。
「いやだなぁ、決まってるでしょう?勝利さんに会いにですよ」
「決まってないし名前で呼ぶな弟のオトモダチ」
予想通りの反応にまた笑みが深くなる。
可愛い可愛い。
「勝利さんが一人だって聞いたから。寂しいだろうと思って」
そう言うと、律儀に作動させていたパソコンの電源を落としながら溜め息をつかれた。
また僕の方を見てから口を開く。
こういう所は兄弟でよく似ていると思う。人の目を見て話すのは、二人して同じだ。
「名前で呼ぶなと言っただろう。それに俺は寂しくなんて全くなかったし、お前が来たからといって嬉しくともなんともない」
「またまたぁ。照れちゃって~」
こんな応酬も今や日常茶飯時。
ふん、と無表情でどこか高飛車風な態度を取る彼もやっぱり可愛くて、それでまたこの表情が崩れる瞬間が堪らないんだよね。
「………わかりましたよおにーさん」
降参とばかりに苦笑を浮かべて肩を竦める。
名前で呼ぶなと言う彼は、おにーさんと呼ぶと少し悲しげな顔をする。
渋谷を通しての呼び名だから、身代わりみたいに思うんだろう。無意識にそんな顔をされてしまえば僕の可愛い加虐心がくすぐられてしまうよね。
追い討ちをかけるように言葉を続ける。
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