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そもそも眠っているリーダーに声をかけるなど、不躾も良いところ。まぁこんな事ができるのは限られているし、おそらくは花鈴か火多流のどちらかだろう。
そこまで考えて風祭司は半分夢の中にいる思考を無理に引きずり起こして、その重い目蓋を開けた。
「風をひきますよ、司」
覗き込んでいたのは亜麻色の髪に彩られた、淡く柔らかな微笑み。優しさと気品を兼ね備えたその女は──……
「──沙妃(さき)!?」
「お久しぶりですね、司」
飛び起きた司は、すぐさま平伏する。頭を垂れる彼を見て、沙妃と呼ばれた女は、良いのです、と小さく呟いた。
「私達の仲ではありませんか。私達は火多流と花鈴のようなもの。幼き日を共に過ごした仲ではございませんか」
「形だけだ。一応、な」
ニヤリと笑って、司は頭を上げた。
「で、今日はどうした? 一人か?」
「まさか。私が一人で出歩けるわけないでしょう?」
少し悲しげに微笑んで、沙妃はあぐらをかいて座る司の隣に腰を下ろした。耳元から一筋だけこぼれた髪が、ゆっくりと風に揺れる。
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