接近

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「愛音チャン?鍵開けたから入ってきて。ごめんちょっと動けなくて…。」 「大丈夫!?無理しないで。」 奏くんは力なく笑ったようだった。 わたしはドアノブに手をかけ、ゆっくりと回して扉を開けた。 「お邪魔します…。」 なるべく音を立てないように家の中に入る。 すごくきれいで広いけれど、何もなくてなんだか寂しいお家だな…。 リビングのものらしき扉をそーっと開けて中の様子を伺う。 居た…。 奏くんはソファに横になっていて薄い掛け布団一枚かぶっただけの姿で目を閉じていた。 「奏くん…。大丈夫?」 奏くんはゆっくりと起き上がってわたしを見ると弱々しく微笑んだ。 「大丈夫。ごめんね、わざわざ…。」 「ううん、全然いいの。それよりも病院には行ったの?」 「いや…薬飲んで寝てたら治ると思ったんだけど、何も食べれてないから薬も飲めなくて…。」 「じゃあ…良かったら何か作らせてくれないかな…?」 「えっ?まじで?」 「迷惑じゃなければ…。」 わたしは断られたら恥ずかしいと思って下を向いて小さな声でしか言えなかった。 奏くんの為に何かしてあげたいの。 ううん、2人の時間を長く感じていたい…。 だって今この時はわたし達ふたりだけ。 詩音も響くんも、うるさいクラスの女子も居ない。 わたしと王子様だけの空間…。 考えただけで脳がとろけてしまいそうだわ…。 「ありがとう、助かるよ。」 奏くんは笑って言ってくれた。 「台所借りるね。出来たら起こすから寝ていて。」 と言うと、分かったと言って横になってすぐに寝息を立て始めた。 寝顔を見れるなんて…。 不謹慎だけど、奏くんが風邪を引いてくれて良かった…。 心の底からそう思って、うきうきした気持ちで台所に行った。
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