わたし

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気がついたら中庭に居た。 どうやってきたかも覚えていない。 『詩音チャンはきれいだからいいけど…。』 さっきの女子の言葉が耳から離れない。 双子だから同じ顔なんだよ? ちゃんと見てよ…。 だめ…見ないで…。 食欲もなくなり、お弁当を膝に乗せたままベンチに座っていた。 中庭は狭くて、草が生い茂っている。 手入れしたらきっときれいなのに…。 …わたしもそうなのかしら。 真ん中に一本大きな桜の木が立っている。 今は花も枯れてしまって、明るい緑の葉が揺れている。 初夏の明るい日差しが当たって、時々キラキラと光っていた。 雑草に囲まれながらも桜の木は悠然と自信たっぷりで存在を主張している。 強くたくましく、決して目を奪うほどの美しさではないけれど…。 わたしは桜の木を少しうらやましく思って眺めていた。 それにしてもこの中庭なんでこんなに人が少ないのかしら。 今ここに居るのはわたしだけ。 もしかしたら入ってはいけないのかも…。 わたしはどこかほかの場所にいどうしようと思い腰を浮かした。 わたしの影が動く。 あれ? 影がもうひとつある…。 わたしの後ろに誰か立っている。 怒られる!! 反射的に体をまるめて小さくなった。 「愛音?」 知っている声。 恐る恐る振り向くと、詩音が響くんと仲良く腕を組んで立っていた。
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