第二章  初めての依頼

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      城塞都市ザールブルグは真上から見ると、巨大な日時計のような街だ。     外壁がぐるりと街を一周し、中心の尖塔に向かって大通りがいくつか走っている。     南側の正門から延びているのが、大きな中央通り。それと平行するように裏手に位置するのが、通称『職人通り』である。     そこには街一番の職人達が多く集い、それぞれに自慢の腕を振るう。     鍛冶屋、パン屋、靴屋……ありとあらゆる職人達の店が軒を連ねた通りだった。     その通りのはずれに、一軒の店がある。     円筒形の小さな建物の上に、とんがり帽子をのせたような赤い屋根。     ここが、マリーに与えられた工房――。     五年の間、学校から貸し与えられた卒業試験の作品を作る場所だ。     今までアカデミーの寮に住んでいたマリーが、そこを追い出され――いや、試験に没頭するために移り住んだ『錬金術の店』でもある。     二階がマリーの住居となっており、一階にはまさしく錬金術を駆使するための工房がある。     工房といっても、部屋の真ん中に大きな釜が備えつけられているぐらいで、他の細かい調合用の器具等は見当たらず、申し訳程度に机と椅子、そしてわずかばかりの参考書を納めた本棚が置いてあるだけの、実に殺風景な空間であった。      
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