33人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな中で、
ぺらっ、ぺらっ……。
机の上で開いた参考書のページを、次々にめくる音が響いていた。
「どう、見つかった?」
傍らに立ったシアが、待ちきれないかのように横から声をかけてくる。
「もうちょっと待って。……きっとあるはずだから」
「うん。頑張ってね、マリー」
「ありがと」
マリーは参考書にびっしり書き込まれた文字面を目で追いながら、目的の項目を探し続けた。
「えーっと……『燃える砂』、『燃える砂』っと……」
それは先ほど、森の中で出会ったルーウェンから頼まれた品の名である。
小瓶に詰めた『燃える砂』を五個作成したら、銀貨を三百八十四枚もくれるというのだ。
生活苦にあえいでいたマリーが、この話に飛びついたのはいうまでもない。
結局マリーは、十分な装備もないまま女の子達が出歩くのは危険だからというルーウェンの忠告もあって、ヘーベル湖での探索を途中であっさり断念し、このザールブルグへと一旦舞い戻ってきたのであった。
そして街の入り口まで送り届けてくれたルーウェンは、マリーに「じゃ、頼んだぜ!」と念を押して、再び盗賊探しに出かけていった。けっこう爽やかで、いい奴だった。
マリーが工房を開店してから一週間。こうして早くも仕事にありつけたのである。嬉しさに胸を躍らせながらシアと一緒に職人通りの工房へと帰り着いたマリーは、さっそく『燃える砂』について調べようと、文献となる参考書を片っ端から引っ張りだしていたのだが……。
最初のコメントを投稿しよう!