1章∮平和∮

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 広い世界。  この世界は全てが平和という言葉の上に作られたような世界である。  そんな平和の中に小さな村があった。その村には数十件の家しかなく、土地のほとんどがたんぼや畑が広がっている、平穏な村。  その村で自然と共に育った少年は、家の前でいつものように幼なじみを待っていた。どこにでもいる平凡な男の子である。 「今日もいい天気だな」  少年は頭上にある三つの太陽を見上げ、まぶしそうに目を細めて言いながら、のんびりと深呼吸をしていた。 「おはよー!!」  とその時、全力疾走でやってきた少女が、元気よく挨拶をした――まではよかった。深呼吸をしていた少年の背中を、その勢いのまま叩くまでは……。そのあまりの衝撃に、少年は息が一瞬止まりかけた。 「っ!! いきなり何しやがる」  少年は平穏を見事にぶち壊した張本人を睨み付ける――が、あまりの衝撃に目には涙が浮かんでいた。なんとも迫力の無い……。 「ゆっくり深呼吸なんてしてるガイ君がいけないんだよ?」 「叩いといて他人のせいかよ……。それに、ガイ君はやめろって言ってるだろ。カヤもガキじゃねぇんだから一回言われたらやめろよ」 「やーだよ。ガイ君はガイ君なの!!」  カヤと呼ばれた少女は『ガイ君』を連呼しながら歩き始めた。 「あぁ~。もう、やめろっての」  ガイ君と呼ばれた少年は、カヤの連呼を止める為、小走りぎみに長い後ろ髪を追い掛けた。  どこにでもあるいつもの毎日。  しかし、今日はそんないつもとは違う一日が始まろうとしていた。  そんなことを平和な毎日しか過ごした事のないガイ君とカヤは想像できるはずもなかった。
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