124人が本棚に入れています
本棚に追加
今までの生涯で、ここまで必死に走ったことがあっただろうか、倒れてくる柱を薙ぎ払い。道に転がる屋根瓦を魔法で吹き飛ばして、走り続けた。
「ユキ!! リク!!」
息は完全にあがっている。肺は酸素を要求しているようだが、ガイヤの呼吸は止まっていた。
目線の先には、腹部を鋭利な刀で引き裂かれたように広がり、辺り一面に真っ赤な液体を撒き散らしている物体が二つ。重なり合うように転がっていた。
そこにはさっきと同じ化物が一匹、真っ赤に染まった自分の爪を舐めていた。
その光景を見た瞬間。ガイヤは殺すこと以外、考えることができなくなった。全身で殺気を放ち、大声で詠唱をしながら走り出した。
「天輝き、地を照らす時!!」
化物も新たな獲物を切り裂くべく、こちらに向かって走り出す。
「世に巣食う悪を滅ぼす!!」
化物が爪を振り上げ、ガイヤがすかさず懐に潜り込む。
「我が前に裁きの輝きを!!」
爪が振り下ろされる瞬間。化物の腹部から全身を簡単に包み込む火柱が放たれた。
遅れて二人が到着するころには、化物は灰すら残らず、完全に焼失していた。
呼吸の荒いガイヤを見て、心配そうにカヤは尋ねた。
「ガイ君大丈夫?」
「カヤ……」
「この馬鹿!! 一人で突っ走るんじゃないわよ!!」
「サエ……。すまん」
「謝るぐらいならもう二度とこんなことするんじゃないわよ」
「あぁ……」
「何があったの?」
「守って……やれなかった……」
重く暗い空気が流れた。沈黙が耳に痛かったが、誰も言葉がでなかった。
長い沈黙の後、不意に背後で、何かが倒れるような音がした。また柱が倒れたのか、とガイヤが振り向くと目を見開いた。
最初のコメントを投稿しよう!