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畑だらけの村にも、学校というものは存在する。それがここ、『シルヴァーナ魔法分校』だ。敷地はそれほど広くない、歩いても五分あれば学校の周囲を一周できるぐらいの、小さな建物だ。
分校と言われている理由は、とにかくここは人が少ないことにあった。全校生徒は二十人、年齢も七歳から十四歳までとまちまち、もちろん教室は一つしか存在せず、全生徒がクラスメイトなのだ。
少し前までは、親が自分の子供に勉強を教えていたらしいが、大人の事情で学校が必要とされ、隣街にある本校の分校として創設されたのである。
「皆さん席についてください」
四十代半ばほどで、笑顔が優しい女性の人が教室に入ってきた。
この人は、この学校にいる唯一の先生で、生徒の事を常に考え、相談はもちろん、生徒一人一人に気を配る、まさに模範的な先生である。
「今日の授業は昨日言ったとおり『ロティエル平原』で魔法の実技訓練を行います。皆さん学校の外だからといって――――」
お決まりの注意を語りだした先生にガイ君は「退屈だ……」と呟いた。
ロティエル平原とは、村から西に街道を行った所にある平原で、魔法の訓練や実技テストとしてよく行く所である。
暇潰しの為、ガイ君は隣に座って、真面目に注意を聞いてるカヤに話しかけた。
「毎度毎度、こうまでも同じことばかり言われてると、正直どうでもよくならないか?」
「ガイ君何言ってるの。安全に行って無事に帰ってくる為なんだよ? とっても大切じゃない」
「そんなこといわれてもな……。って、だからガイ君て呼ぶな!!」
思わず出てしまった大声は、教室にいる全員の耳に入った。もちろん先生にも……。
一瞬にして、世界は時間を進めるのを拒否したかのような静寂に包まれた。ゆっくりと先生の視線が少年をとらえ、厳しい顔つきになると時間が進んだ。
「ガイヤさん。お話なら後でゆっくりと聞いてあげますから、もうしばらく静かにしてもらえますか?」
「すいませんでした」
全身から感じる恐怖と鬼の目に睨まれながら、ガイヤは静かに着席した。隣ではカヤが笑っていたが、後にやってくる先生の説教を考えているガイヤには、何も聞こえていなかった。
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