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指には対した力も入っていない、唯籠められて
秘められた。
うっそりと細められた双眸、青年のそれは深紅、皇子の髪を溶かした様なルビーの瞳だった。
それを鬱蒼とした漆黒が覆い隠し、白い頬に陰を落とす。
どれ程そうしていたのだろうか、指先が異様に冷えるのを感じて青年は力を抜いて手を引いた。
行く先を知らぬ手は宙をさまよい、意味もなく己の漆黒をかき上げる。
漆黒が絹のしなやかさを持ってたゆたった。
「…んん、レイ?」
橙色の照明をぼんやりと眺めていた青年の耳に自分の名前が聞こえた。
はっとしてベッドを見れば、熱の余韻に頬を赤らめた幼い皇子がサファイアの瞳を輝かせている。
「レイ、来てくれたんだな!良かった…忙しいから来てくれぬと思っていたんだ」
「私が居らぬ間に皇子に何かあっては生きていけませんから。」
レイは微笑む、酷く優しげに暖かく。
それは家族の微笑でもあり、従者の微笑でもあった。
兄の腕の中は皇子のもの、一人ぼっちの皇子のために、レイの腕は誰にも解放されていない。
実の兄のように自分を慕う皇子を前に、軽くルビーの髪を撫でるレイの血色の瞳は痛ましげに歪み、虚無と焦燥に溺れている。
愛されるべき存在
汗ばんだ体を腕に感じて、唇が震えた。
――意気地無し
あざけ笑うのは誰だろう。
耳鳴りのように、レイを締め付ける声が響く。
そっと、レイは体を離した。
「明日の決闘は延期しますか?」
首を軽く傾げて、青年は彼の額に浮かんだ汗を指先で拭う。
悪戯にそれを舌先で舐めとれば塩辛く、皇子はほてった頬を更に赤らめた。
えぐられていく肉の音が聴こえる。
「大丈夫だ。…レイ、俺に負けるのが心配か?」
「喜びましょう、立派になったのだと。」
柔らかな笑みを浮かべた青年を見て、皇子は無邪気に笑いかける。
明日
太陽が時計塔にかかる頃
夢も現も狂気に変わる。
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