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 女はベージュ色の柔らかなロングコートをはおり、白いマフラーと黒の革手袋を身につけている。髪を後ろで一つに結って、斜めにはらりとおろした前髪があどけない顔を大人びてみせた。 「すみません」  私は、照れ笑いしながら立ち上がった。すると、女は窪地に下りてきて、深雪(しんせつ)に足をとられながら私の方へ近づいてきた。 「うわあ、すごくきれい」  広げた傘を持ったまま、だらりと両手をおろして空を仰いだ。無邪気に笑う姿。私は単純に惹かれた。 「こんな場所、あったんですね」 「そうですね」  女は私を見つめた。だが、私はその視線から逃げるように体の雪をはらうことに集中した。 「同じ旅館ですか?」  女は地面に落ちた傘を見て呟いた。 「そうみたいですね」  私が落ち着いた口調で言うと、女は肩をすくめてふふふと含み笑いした。 「何か、おかしいですか?」 「寝転がって見るくらいに、きれいな景色でしたから」 「ああ……」  私は小さく頷いた。 「お一人でこちらへ?」 「ええ」 「私もです。なんだか、雪がとても見たくなって」  女はふっくらした白い頬に靨(えくぼ)をつくって、私を見つめた。
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