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冬の日暮れは早い。窓の外は闇がどんどん深まって、山は輪郭を暗く描いている。街灯の明かりの中で雪が散々と舞い、光がふくらんでみえた。
部屋の呼び出しベルが鳴って、私は玄関へ向かった。すでにテーブルの上には料理が並んでいる。
「こんばんは」
千鶴は、淡いピンクに黄色い花を咲かせた浴衣の上に茜の羽織を着ていた。
「温泉入ってないんですか?」
私は、彼女の愛らしい眼を直視できなかった。
「……はい」
「三朝といえば温泉ですよ?」
千鶴は目を丸くさせて私を見た。
「後で入ろうかと」
私は苦笑した。
「ふうん」
どこか納得がいかないようすで口をとがらせた。だが、テーブルの上の料理を見たとたんに瞳を輝かせた。そして、すぐに席についた。
「わあ! おいしそう」
千鶴は、ご馳走をぐるりと見回している。
「蟹、好きなんですか?」
「はい。焼き蟹が特に」
千鶴はそう言って手招きした。
「早く食べましょうよ」
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