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 私はゆっくりと席について、千鶴と向かい合った。そして、ビールを酌み交わすと、彼女は早速蟹を頬張った。私が中々身を取り出せずにいると、千鶴は食べるのをやめた。 「お手伝いしましょうか?」  私は口を曲げて千鶴を見た。 「どうも苦手で」  その顔がおかしかったのか、千鶴はにっこりと笑った。そして、私から蟹を取ると、自分の前に置いて、丁寧に殻を外していった。 「男女が蟹を食べるときって、どういうときか知ってますか?」  千鶴は、蟹の身をきれいに取り出すと、それを皿に並べていった。 「いや、知りません」  食べることもそっちのけで、私のために身を掻き出してくれている彼女に申し訳なく感じ、何も口にせず、その姿を眺めた。  千鶴は一旦手をとめて、笑顔で私を見つめた。 「別れるときだそうですよ」 「へえ、どうして?」 「無口になるからなんですって」 「そうなんだ」  再び蟹の身を取りはじめた。私はうつむく彼女を見つめた。白い首に、まとめた髪からはらりとこぼれ落ちる一筋の髪。心の中で、何かがうごめく感じがした。
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