37人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
夜の暗さはますます濃くなっていった。そして、雪はさらに降り積もっていく。
「わあ、きれい」
千鶴は窓を向いて、感嘆の声をもらした。私の迷いに気づかないようすだった。
私は煙草を一本抜き出し、丁寧に火をつけてゆらりと煙を吐き出した。
「ねえ! 松本さん見て!」
千鶴はまぶしいくらいの笑顔を向けた。
「え? 何か見えるの?」
吸いはじめた煙草を消してそばに近寄った。彼女が指差す先には、こんな寒い中、河原露天風呂に入る男達がいる。
「寒くないのかなあ」
千鶴は笑った。
「ねえ、松本さん。雪がきれい」
彼女が夜空を見上げる。暗闇の中を雪がちらちらと風に吹かれていた。
右に目をやると、窓に映る千鶴の顔には憂色が漂っていた。
「ほら、ねえ松本さん」
私に向けられた笑顔は無理をしているように見えた。
それ以上しゃべらせまいと、私は唇でその口をふさいだ。
千鶴は突然の出来事に目をひんむき、唇に力をこめた。だが、私の強引な接吻を受け入れ、舌を絡ませた。
最初のコメントを投稿しよう!