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 その行為に不安はあったが、唇を重ねて引きさがるわけにはいかなかった。私の胸の動悸は自分でもわかるほど高鳴っていた。  腰にまわした両手に肉体の重みを感じた時、千鶴が私を受け入れたような気がした。  氷のように冷たい布団が温まるまで時間はかからなかった。  千鶴は私の腹に跨いで座り、密着させた。湯上がりと女の入り混じった香りが彼女の体から立ち上る。顔は優しく、慈悲深い表情だった。  私は、ただやみくもに千鶴の唇を重ねるだけだった。だが、的確に私を刺激する。お酒のせいか、死への恐怖から逃げるためか、私はひたすら唇を重ねた。  動かないくせに脈は早くうち、体全体が湿り気をおびる。  千鶴は私の上で一体となった。だんだんと顔が苦痛に満ちた表情にかわる。  肌が激しく触れ合い、それと共に私のおそれは急速に消えていった。生や死の不安に対して、どうなってもいいという投げやりな気持ちが徐々にひろがっていく。荒れ狂うように私の生と千鶴の生はぶつかりあっていた。やがて、絡ませた手に力が加わった。千鶴は吐息をもらすと同時に、私の脇腹に倒れこんだ。
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