37人が本棚に入れています
本棚に追加
苦しまない自殺には、どういったものがあるのだろうか。
練炭、首吊り、ガス中毒、飛び下り、と死に方は様々であるが、どれも未体験のために色々と想像してみる。しかし、もしも飛び下りた後で生きたいと考え直したらとか、ガスに引火すれば大惨事になりかねないなど、そんな不安が心をよぎる。
本当に死にたい人は、そんなことを考えないのだろう。生き抜く力を失い、もしかすると、この鈍痛から助けてもらうような思いで死を選ぶのかもしれない。
死とは孤独だ。生ある万物は皆、同じ結末を迎える。病死や事故死、死に様はどうであれ、誰でも最後は一人でこの世から去る。
私は、自らの死を選びたい衝動に駆られた。これ以上、生きていたくはなかった。逃げてきた人生に終わりを告げたい。そのために、安易で苦痛を味わうことなく命をすてる方法を常に探していた。そしてある日、下見を兼ねて一泊旅行を決行した。その時の勢いで死ぬことができるかもしれないと思い、念のために宿をとった。
そこは、雪深い温泉地である。
早朝に家を出た私は、電車を二本乗り継いで目的地まで向かった。
不眠に疲れた目に、窓外の光の中を移る美しい冬景色が刺すようにしみた。
枯れた稲田を覆う深雪(みゆき)は、下の芥を隠し一面をモノクロームの世界にする。
最初のコメントを投稿しよう!