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 暗い部屋の中に、外から入りこんだ雪の影がこぼれおちていた。  私達は布団を放りなげて、正面の暗く沈んだ天井を見ていた。 「本当は、死にたいんです」  千鶴は冷静な口調をしていた。降っては溶けていく雪のように、清らかな声だった。 「え?」  私は千鶴に顔を向けた。彼女は天井を見つめたままだ。その横顔は、暗がりの中でもわかった。透き通るような白い肌、冷え冷えとした丸い眼。血色のいい唇から白い歯がちらりとのぞいている。 「この場所で死にたかった」  千鶴は瞳を閉じた。  私が布団をかぶせると、しばらく経って、寝息が聞こえた。私は、その寝顔を哀れみ愛する気持ちで眺めた。  初対面であったのにも関わらず、私は本能的に千鶴の背後に男の影を見た。彼女の大胆な行動や、豊かな胸のふくらみが、私にそう思わせたのかもしれない。それは理屈ではない、一つの勘でしかなかった。  それと同時に新たな勇気が湧いた。彼女の心を見た気がして、繊細な内面と肉体をこの上なく美しいと思った。  生きよう。それはいっときのことかもしれないが、自分の中にすとんと落ちてきた。
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