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 私は千鶴に促されて、浴室へ向かった。  温泉の湯気がもうもうとたちこめ、先が見えないほどだった。まるで、千鶴を追い求めてさまようように私は慎重に歩いた。その時、冷たい風が流れこんだ。すると、一瞬にして視界は広がり、明るい浴槽で少女のようにはにかみのある笑みを浮かべた千鶴の姿があった。私は安堵して、微笑みかえした。 「早く」  千鶴は朗らかに笑って、手招きした。 「ああ」  私は、前をタオルで押さえながら湯につかった。  檜風呂から小さな庭が眺めることができる。  楓の枝は雪の重みでしなり、岩や苔も全てが雪化粧をほどこされていた。  それを背景に、千鶴の裸の白さが眩しかった。 「もう、チェックアウトがすんだら帰るんですか?」  千鶴は交互に手を動かして肩に湯をかけていた。水滴は肌に馴染まないのか、その一つ一つが鎖骨から胸を伝っている。  私は視線を庭へ移した。 「うん」  私の返事にクスリと笑った。そして、上目をつかって私を見つめた。 「よかったら、砂丘行きませんか?」 「別にいいけど」  私はぶっきらぼうに答えた。
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