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 だが、千鶴が部屋にきたとき、それは消えてしまうようだった。  私達はチェックアウトをすませ、タクシーに乗り込み、鳥取砂丘へ向かった。  よく晴れているのに、外は風が強かった。荷車を押す老女の髪と首に巻かれたスカーフがはためいている。  その時、千鶴の鞄から携帯電話の着信音が五回鳴って切れた。再び鳴ったが、二回の呼び出しで終わった。  私は、一瞬びくついた。 「昨日はすっかり眠ってしまったわ」  千鶴は、なにごともなかったように明るい声で笑った。 「松本さん、ねむくない?」  私は軽く頭を振った。  なぜか、その着信にはふれてはいけないような気がした。  タクシーがスピードをぐっと落として道脇に止まった。そして、運転手がしゃがれ声で言った。 「ここから行くとすぐ砂丘です」  先に千鶴を外へ出した。 「ありがとう」  私はそう言い残して、道に降り立った。  外へ出ると、冷たい風が体を通り過ぎていった。  道の端には、ふきつけられた砂と雪が混じっている。  松林にはうっすらと雪が積もり、それが冬の寒さをいっそう際立たせているようだった。
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