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「わあ、きれい」  千鶴は鞄を両手で持って、胸をそらせた。  悠久の時をかけて、海から砂が運ばれた不滅の丘。一面に雪が降り積もっている。  日本海へ目を向けると、砂丘の背が横たわる。その向こうには、波立つ海の深い青があった。  雪雲が全てを寒色にする。 「あのてっぺんまで、いけるのかな」  千鶴はささやいた。  こんな日は、無謀にも急勾配に挑む若者達がふざけながら登っているだけだった。 「行こうか」  私は声をしずめて千鶴の手首を掴んだ。  砂に足をとられながら斜面をかけおりる。 「待って、うまく歩けない」  砂丘を風が吹き抜け、表面の雪を巻きあげていく。 「松本さん、待って」  シャツが肌にぴったりと吸いつく。ダウンジャケットの中は、蒸し風呂のようだった。  私達はゆっくりと頂上を目指した。  吹き下ろしてくる風に、かすかな春の息吹きがあった。 「あと少しだ」  そう、もうすぐ。この歩みをとめなければ――。
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