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「だめよ! 死んじゃうわ!」
千鶴は、私の腕を振りほどいた。その勢いで私達は向かい合った。
「僕も死にたいんだ」
一瞬にして、千鶴の顔に悲しみがあらわれた。
「だめよ」
「何もできないんだ」
私は千鶴の瞳を凝視した。
彼女は泣き叫んだ。
「そんなことはない!」
私はさえぎった。
「生きていたくはない」
その時、千鶴の瞳は黒さを増した。
それは、生きる――そのものだった。死にたくない、生きていたい。その事実を見据えるように、漆黒はますますうるんでいった。
「あなたを死なせはしない」
千鶴は頭を寄せて、私の頬を両手で優しく包みこんだ。
「もう、逃げないで」
風が一段と強くなり、海は濃い色に変わった。
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