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 高校を卒業してからも、だらだらとした交際は続いた。そして、陽子の妊娠をきっかけに私達は結婚した。  大学を出て街の商社に勤めていた私は、漠然と結婚に対して夢を抱いていた。朝食を楽しい会話で迎え、夜は一日の疲れを妻に癒される――そんなものだと考えていた。だが、現実は違った。  私は陽子の実家へ婿入りし、週末の休みもそんな血の繋がらない人の輪の中で過ごさなければならなかった。  陽子の父、栄介はネクタイや着物の帯などを織る会社を経営していた。大きな会社から下請けを担い、大金に変えるとすぐに不動産に変化させた。近所では土地泥棒と呼ばれ、煙たがられていた。だが、栄介はずば抜けた商才を持ち合わせていたわけではなく、幼少時の貧しい暮らしがそういった野望を抱かせたのだった。  平成へ時代が移り変わると、地価が下落し、大型量販店があちこちに出来た。会社は簡単に行き詰まった。諦めの早い栄介は、それを投げ出して財産を全て金にした。そして、それを握りしめて家を去った。  あの頃が人生の底辺だったような気がする。いや、そうではない。深い陥穽(かんせい)にはまって、そこから這い出ることができなかったのだ。
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