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 体は温まってきたが、顔面は痛いくらいだった。鼻先は空気を吸うたびにひりつく。だが、この辛い状況も今日までかもしれない。そう思うと、私はすぐにでも旅館へ着きたかった。死にたいという激情が私の歩く足を早めた。  私は駅からタクシーをひろい、旅館へ向かった。  三徳川に沿って走っている時、雪が降り始めてきた。粉雪が川面めがけて吹き下ろす風に乗って、車の窓に勢いよく当たる。そして、水滴に変わると窓をつたって力なく落ちていった。  旅館に着くと、仲居達がたいそうな出迎えをした。その中から一人が出てきて、私の軽い鞄を持った。 「いらっしゃいませ。長旅の疲れはございませんか?」  薄紫色の着物に紅の帯をしめたふくよかな女が優しく微笑んだ。 「は、はあ」  私はしばらくこんな風に見ず知らずの人間と会話していなかったために、その挨拶に戸惑った。  相手は嫌な顔もせず、にこやかにフロントへ案内した。  私はチェックインを済ませると、仲居に連れられて部屋へ向かった。  一階には、売店や喫茶コーナーがあり、その間を抜けると露天風呂へ続く廊下が広がる。臙脂色の絨毯が運動靴に含んだ水分を吸い取ってくれた。
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