ある研究者の短編

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ついに……ついに完成した……透明人間になれるマシンを! 時刻は午前四時。マシンの完成を祝うかのように小鳥がさえずる。 私は昔から研究に生命を捧げていた。だって自分にはそれしかなかったから。 根暗でいつも本ばかり読んでいた私を皆は、後ろ指さして笑っていた。 「あいつ勉強ばかりして楽しいのか?」 「友達いないんだよ、あいつ。そりゃそうだよな、根暗だし」 「あいつ、キモいよな。近寄りたくないんだけど」 「なんであいつ学校来てんだろ。さっさと不登校になれよ……」 それらの陰口もそれらをクスクス笑って楽しむ人たちの声も私にしっかり届いていた。もしかしたら、彼らはわざと私に聞こえるように話していたのかもしれない。だとしたら、さらに陰険だ。 いつからか、私はこう思うようになった。 皆から見えなくなればいいのに……そうすれば皆は私なんか忘れられる。私は皆の目なんか気にならなくなる。 こうして、五年前から私は新たな研究を開始した。透明になれるマシンをつくるため。 顔を洗おうと私は洗面所へと向かう。 鏡には年の割に老けて見える女の顔が映っていた。目は小さく、ニキビが目立ついかにも根暗そうな顔。この大嫌いな顔とも直におさらば。マシンが完成したのだから。 私が研究室に戻ると、さっきまで寝ていた助手がマシンの前に立っていた。 「……ついに完成したんですか」 「ええ」 表情には見せないが、彼は心底大喜びだろう。私の顔をやっと見なくてよくなるから。彼は研究当初から私一人では解決できない問題のためにしょうがなく莫大な金を積んで呼んだ男だった。 しかし、彼も少し利口なだけで結局陰で私を嘲笑っていたやつらと同じだった。私を汚い物を見るような目で見、極力私と話さないようにしているのがすぐにわかった。 「……これ。あなたへの報酬」 そう言って通帳を渡した。見合う分は与えたはずだ。彼は中身を見て、頷く。用は済んだ。早く俺の視界から消えろと言わんばかりに。 「じゃあ、さよなら」 そう言って、私は機械のスイッチを押した。
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