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どうしたことか。機械は起動しない。もう一度押す。しかし、機械は静寂を保ったまま。当然、私は透明になんてなっていない。
焦る私を嘲笑うような声が後ろから聞こえた。
「それ、起動しませんよ」
彼はそう言った。
「さっき少しいじりました」
私は一瞬のうちに全てを飲み込んだ。
ハメられたのだ。通帳は既に彼の手の中。この機械が動こうと動かまいと彼には変わりない。……私はハメられたのだ。
私はへたりこんだ。
「そんな……」
結局人間なんて信用してはいけなかったんだ。私に味方してくれる他人なんているわけなかったんだ……かつて私を蔑んだ奴等の声が聞こえてくるようだった。
『お前、生きてる価値ないよ』
そして、それを聞いた奴等のまわりにいた全員がクスクスと笑いだす。
逃げ出せるはずだった。そんな世界から……
「あなたは醜い」
目の前の彼が言う。
追い討ちには充分な言葉だ。
「しかし、それは外見の話ではない……心の話だ」
違和に気付いた私は顔をあげた。彼はじっと私を見つめる。
「あなたは何故他人と仲良くしようとしない?傷つくのが怖いから?そうやって自分の殻に閉じこもって、ただ現実から逃げようとしている。他人は全て敵だと思い、被害妄想にかられている!
あなたはほんとは素直な心の持ち主だ!強い心の持ち主だ!
逃げなんて許さない。あなたは僕とこれから共に生きるんだ」
彼はそう言って、マシンを蹴り飛ばした。勢いよくマシンは壁にぶつかり気持ち良い音をたてて壊れた。
彼を見る。私を見つめるその瞳は澄んでいた。
そういえば、人を私から信用したことがあったか?
私は自分に問い掛けた。信頼。よくわからないが……
マシンは壊れた。財産も男の手の中。失うものはない。
信頼。その言葉に賭けてみよう。
私の中で何かが壊れる気持ち良い音がした。
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