あるホワイトデーの短編

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本当の私の部屋ではない私の部屋。その窓の外には穏やかな春の日差し。花粉症の私の鼻をくすぐりそうな穏やかな風。今日はそんな3月14日。   ずっと頭を離れないのは2月14日のこと。たった1ヵ月前のことなのにすごく昔のことのように感じる。あのとき私はどれだけ愛することの代償を知らなかったのだろう。   あの日は今日とは違い見るだけで心も寒くなるような冬空が世界を覆っていた。私はマフラーをきつく縛り、寒さを防いでいた。 「好きです!付き合ってください」   しかし、幼馴染みの顔には万人に伝わる困惑の表情。そりゃそうだ。幼稚園から今まで10年間、ずっと家族同然に思っていた幼馴染みから告白されればそんな表情するよな。 そして、彼は――   ……あぁ、やめよう。考えるだけで後悔が荒波のごとく押し寄せる。  ここでの生活にもだいぶ慣れた。 太陽を隠すように手をかかげてみた。手は相変わらずあのときの感触を忘れていない。マフラーを幼馴染みの首に巻き付けきつくきつく締め付けたときの感触。彼の白くなっていく肌の色も苦しむ表情も…… 少年院の窓の外は輝くような春の光景。
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