ある梅雨の日の短編

2/2
前へ
/19ページ
次へ
僕は梅雨が嫌いだ。大好きだった幼馴染みを思い出してしまうから…… 雨が屋根をたたく音で、目が覚めた。部屋のカーテンを開けると、薄暗い雲が空を覆い尽くしていた。   『ねぇ、なんで梅雨になると君は暗くなるの?』 まだ赤いランドセルを背負った小学生だったころの幼馴染みの言葉が不意によみがえる。学校からの帰り道、確かあの日もこんな雨だった。   僕は何か答えた。それに幼馴染みは笑った。 それから僕たちはお互い、梅雨を罵ったり、擁護したりした。 話に夢中で、僕は車道から突っ込んできた車から彼女を守ってやれなかった……   涙が頬をつたった。彼女は気の弱い僕にも優しくて、おしとやかだった。僕はそんな幼馴染みが大好きだった。そんな彼女を返してほしい。何度も僕は神に願った。   その時、部屋のドアが勢いよく開いた。 「ねぇ!あなた!早く起きて!」 結婚してからすっかり性格が変わってしまった幼馴染みが頬を膨らまして入ってきた。車にはねられてできた額の傷も今では見えなくなるくらい薄くなった。 あぁ、神様……あの頃の優しい幼馴染みを返してください…… 僕はため息をつき、急いで支度を始めた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加